深い森と清らかな川、どこまでも続く山並み。
そして、その静寂のなかをゆっくりと進む一両の列車──。
今回の旅の舞台は、福島県会津地方と新潟県を結ぶローカル線「只見線」。
そのなかでも特に美しいと評される第一只見川橋梁や、心も身体も温まる温泉施設つるの湯を訪れた旅の記録を、たっぷりとご紹介します。
錦絵のような絶景──第一只見川橋梁と只見線の魅力
只見線といえば、やはりまず思い浮かぶのが第一只見川橋梁の風景です。
この鉄橋は、会津宮下駅〜会津西方駅間に位置しており、只見川に架かるアーチ型の橋。
列車が橋を渡る瞬間、川面に橋と車両が美しく映り込むその姿は、まるで鏡のよう。お写真にもあるように、その“リフレクション”の美しさは、ため息が出るほどです。
撮影スポットとして人気の「第一橋梁ビューポイント」からは、深い緑の中に突如現れる橋梁を高台から見下ろすことができます。
早朝には川霧が立ち込め、まるで幻想の世界に迷い込んだかのような景色に出会えることも。
列車が通るタイミングは本当に一瞬。静かな山あいに、線路の響きが遠くから近づき、そして目の前をゆっくり横切っていく。その刹那の美しさが、多くの鉄道ファンや風景写真家を惹きつけてやまない理由なのです。
アクセスと撮影のコツ
撮影地は、「道の駅みしま」から徒歩数分で着きます。しかし、道の駅から第一橋梁ビューポイントまでは高低差がかなり、ちょっとした登山道のようになっています。そのため、スニーカーなど歩きやすい靴を履くことをお勧めします。
また、夏場は虫除けや水分補給もお忘れなく。
撮影するなら、晴れた日・風が穏やかな日を狙うのがベスト。
特に朝方や夕方のやわらかい光の時間帯は、川面の反射が美しく、より幻想的な写真が撮れます。
只見線は“奇跡の復活”の物語
只見線は、2011年の新潟・福島豪雨により、複数の橋梁や線路が流され、一部区間が長年不通になっていました。
しかし、地元自治体とJR東日本、そして全国のファンの熱い想いによって、2022年10月、全線復旧が実現。
この奇跡の復活劇は、多くの人の心を動かしました。
只見線を走る列車の姿は、「人と自然をつなぐシンボル」として、より特別な意味を持つようになったのです。
鉄道旅の疲れを癒やす「つるの湯」
撮影の後に訪れたのは、只見線・会津宮下駅のすぐ近くにある日帰り温泉「つるの湯」。
木の温かみを感じる和風の外観が、どこか懐かしく、ほっとさせてくれます。
温泉に入ると、ほんのり硫黄の香りが漂い、柔らかく包み込むようなお湯が全身にしみわたります。
泉質はアルカリ性単純泉で、お肌がつるつるになる“美人の湯”としても知られています。
露天風呂からは只見川と山並みを一望でき、まるで自然と一体になるような感覚。
湯けむりの中に耳を澄ますと、遠くから聞こえてくる列車の音が、旅情をそっと添えてくれます。
なお、つるの湯の最寄り駅は早戸駅です。
静けさが心にしみる──奥会津の風土と人情
只見線沿線は、都市の喧騒とは無縁の、穏やかな里山の風景が広がる地域です。
春は桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪景色。どの季節も美しく、“日本の原風景”とも呼ばれるこの地には、昔ながらの暮らしが息づいています。
沿線の集落では、地元の方が温かく迎えてくれるのも嬉しいポイント。
道端で出会ったおばあちゃんが、「今日はいい天気だねぇ。橋梁から列車見れた?」と笑顔で声をかけてくれる──そんなふれあいも、旅の素敵な思い出になります。
おわりに:心を解き放つような旅
今回の只見線の旅は、鉄道写真の楽しさだけでなく、「自然に癒やされる時間」「人とのふれあい」「ゆっくりと流れる時」を感じる旅でもありました。
列車が川を渡る瞬間、その美しさに思わず見入ってしまう。
温泉で川の音に包まれながら、心までほぐれていく。
そんな“心を静かに揺さぶる旅”が、ここ奥会津にはあります。
次は雪景色の中の只見線を追いかけに行くのも素敵かもしれません。
またひとつ、特別な旅の記憶が、写真とともに心に刻まれました。