蒸気とともに、心を運ぶ──SLばんえつ物語号の旅へ

ばんえつ物語 旅ブログ

汽笛が鳴り、黒い車体がゆっくりと動き出すその瞬間、まるで時間が巻き戻るような感覚に包まれました。
懐かしさと新鮮さが入り混じるこの旅は、新潟県の新津駅から福島県・会津若松駅までを走る観光列車、「SLばんえつ物語号」に乗っての鉄道の小さな冒険。

蒸気を上げながら力強く走るC57 180号機──通称「貴婦人」は、今なお現役で走る貴重な蒸気機関車。クラシカルで美しい車両と、どこかノスタルジックな車内の雰囲気、そして沿線に広がる雄大な自然風景が、まるで一冊の絵本のように心を豊かにしてくれます。

今回は、家族で乗車したその「SLばんえつ物語号」の体験を、出発から到着までたっぷりとご紹介します。
煙とともに進むゆっくりとした時間のなかで、私たちは何を見て、何を感じたのでしょうか──

さあ、蒸気の香りと汽笛の響きに誘われて、懐かしくてちょっと特別な鉄道の旅へ出発しましょう。

旅の始まりは鉄道のまち・新津駅から

週末の朝、私達が向かったのは「鉄道のまち」として知られる新潟県・新津(にいつ)駅。
ここはJR東日本・新津運輸区の拠点であり、かつて多くの鉄道路線が交差した交通の要衝。現在も鉄道ファンにとっては聖地のような場所です。

新津駅のホームに降り立つと、すでにホームの先には黒く輝く大きな車体が堂々と待ち構えていました。
それが、今日の旅の主役──C57 180号機、通称「貴婦人」。
その名の通り、優雅で凛とした佇まい。けれどもそのボイラーからはモクモクと白い蒸気が立ち昇り、今にも力強く走り出しそうな生命感に満ちています。

ばんえつ物語

前方には大きなヘッドマークが取り付けられており、そこには「SLばんえつ物語」の文字。

ばんえつ物語

側面には英語で「BANETSU MONOGATARI EXPRESS」の金文字が施され、まるでヨーロッパの高級列車のようなクラシカルで洗練された雰囲気をまとっています。

レトロとモダンが融合した美しい車体

近づいて車体を眺めると、上部は落ち着いた深紅色、下部は艶やかな黒に塗り分けられ、全体にゴールドのラインが走っています。
そして車両の真ん中には、可愛らしいイタチのイラストとともに「森と水とロマンの鉄道」のロゴマーク。これはこの列車のテーマを表すシンボルであり、沿線の自然と文化を象徴するデザインになっています。

まるで動く美術品のようなその姿に、鉄道ファンでなくても思わず見とれてしまいます。

ばんえつ物語

展望車両のガラス張りのデザインもとても印象的で、後方から景色を眺めるのが今から楽しみになってきました。

出発セレモニーに心が躍る

発車時刻が近づくと、駅のホームには制服姿の駅員さんたちがずらりと並びます。
手には「いってらっしゃいませ!」と書かれた横断幕。

新津駅

「森と水とロマンの鉄道 SLばんえつ物語号」と書かれたキャッチフレーズが、旅の情緒を一層引き立てます。

この出発セレモニーは、SLばんえつ物語号ならではのおもてなし。
乗客一人ひとりが“特別な旅人”として送り出される感覚に、胸がじんわりと温まります。

発車の合図とともに「ポォーッ!」と響く汽笛の音。
その瞬間、車体がゆっくりと動き出し、まるで過去へタイムスリップするかのような感覚に包まれました。

車内探検が始まる!SLばんえつ物語号の楽しみ方いろいろ

蒸気機関車に揺られながらのんびりと進む道中、SLばんえつ物語号の車内は、まるで“走るテーマパーク”のような楽しさに満ちています。大人も子どもも思わず夢中になる、そんな体験が随所に散りばめられていました。

 親子に大人気!「オコジョルーム」で遊ぼう

まずご紹介したいのが、列車の後方にある「オコジョルーム」。この車両はまるごとキッズ向けのプレイルームになっていて、室内は森をテーマにしたデザイン。緑のトンネルや滑り台のような遊具が設置され、車内とは思えない開放的な雰囲気です。

オコジョルーム

壁一面にはかわいらしい「オコジョ」のキャラクターたちが描かれ、記念撮影ができる顔出しパネルも完備。お子さんたちは走り回り、大人たちはその姿を見守りながらほっこり。車窓からは豊かな自然が流れていくのに、車内ではまるで絵本の世界に入り込んだような時間が流れていました。

 「鉄道研究部」の展示と模型ジオラマに感動

もうひとつの見どころは、「新潟大学鉄道研究部」の協力による展示スペース。こちらでは、SLばんえつ物語の運行の歴史やC57 180号機の構造などを解説した資料が並び、小型の鉄道模型ジオラマも設置されています。

ばんえつ物語

ばんえつ物語

動くミニチュアの列車に子どもたちは釘付け、大人も思わず「すごいね」と見入ってしまう精巧な作りに驚かされます。大型モニターではC57の映像も流れていて、車内で鉄道の魅力をじっくり学べる空間になっていました。

郵便ポストもある!ノスタルジックな「サロンカー」

車両の一部には、どこか懐かしさを感じさせるサロンカーも連結されています。木目調の落ち着いた内装に、丸みを帯びた天井、そして中央には昔ながらの赤い郵便ポストが設置。ここに実際に投函された葉書は、特製の消印を押して届けられるという、鉄道好きにはたまらないサービスも!

さらに「フォトギャラリー」では、SLの四季折々の走行写真が展示されており、見応え抜群。列車の速度がゆっくりなぶん、展示物をじっくり見て回れるのもこの旅の魅力です。

お楽しみのお昼ごはんは…かわいくて美味しい「オコジョのたからばこ」

車内販売ではSLばんえつ物語号ならではのオリジナル弁当も販売されています。今回いただいたのは、その名も「オコジョのたからばこ」

オコジョのたからばこ

まるで本当の宝箱のようなかわいらしいパッケージに、オコジョのキャラクターがいっぱい。中には、子どもが喜ぶような色とりどりのおかずやごはんが詰まっていて、まさに“たからばこ”という名にふさわしいワクワク感。
お弁当にはオリジナルコースターも付いていて、ちょっとしたお土産にもなる嬉しい演出でした。

他にも、地域食材を使った駅弁やSLグッズの販売などもあり、ついつい財布のひもが緩んでしまいそうになります。

SLの鼓動を感じる瞬間──石炭の補給と給水作業を間近で

列車は中間地点を越え、阿賀野川沿いの緑豊かな景色を抜けて、少しずつ会津の風土へと入り込んでいきます。
そんな道中、津川駅で数分の停車があり、ここでSLの給炭・給水作業が始まりました。

給水

作業用ヘルメットとつなぎ姿の作業員たちが、黒い石炭が山のように積まれたテンダー(石炭車)に登っていきます。シャベルを手に、リズミカルに石炭をかき寄せる動作は、まさに“職人技”。汗をぬぐいながら黙々と作業を続ける姿に、列車が走る裏側の努力がにじみ出ていました。

その間にも蒸気は絶えず噴き上がり、車体のあちこちから「シュウゥウ…」という吐息のような音が響きます。C57 180号機が、まるで生きているように呼吸し、走るためのエネルギーを蓄えている瞬間です。

子どもたちは目を輝かせ、大人たちはカメラを構えながら、「これぞSL!」と誰もが感じ入っていたに違いありません。

田園と煙と、そして少しの旅の終わりの気配

そして、列車は終着地・会津若松へ向かって、最後のひと区間へ。喜多方を過ぎたあたりで、車窓に広がったのは、一面の田んぼとその向こうにそびえる磐梯山の姿。

ばんえつ物語

外には蒸気機関車が吐き出す黒煙が力強くたなびき、列車の動きに合わせて長く影を落としていきます。車窓に広がるのは静かな田園地帯──その穏やかさの中に、どこか寂しさも混じるような、不思議な感情が込み上げてきます。

終点が近づくにつれ、車内の空気も少しずつ変化していきます。さきほどまで賑やかだった子どもたちも、どこかしんみりした表情で窓の外を眺めています。
この煙の影を見送る時間こそが、SLの旅ならではの“余韻”なのかもしれません。

鉄路のロマンを胸に──会津若松が迎えてくれる

そしていよいよ、SLばんえつ物語号は終点の会津若松駅へと滑り込みます。駅のホームには、カメラを構える人々や、手を振って迎えてくれるスタッフの姿が見えました。
列車が完全に止まると、静寂が訪れ、ほんの数時間前まで新津で見送られたあの汽笛が、遠い記憶のように感じられます。

🚂 SLの鼓動が残したもの

旅の中で最も印象的だったのは、「SLが走る」という単純な事実が、これほどまでに多くの人の手と時間と情熱によって支えられているということ。

石炭を入れる人、水を補給する人、整備する人、見送る人、そして見守る沿線の人たち……
SLばんえつ物語号は、まさに“人の力で走る列車”なのだと感じました。

そして、煙が描いた影は、そんな人々の気配と時間を映し出したもののようにも思えます。

※記事の情報は旅行当時のものです。最新情報はホームページ等でご確認ください。

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