福島県・会津若松の飯盛山。
この小さな山には、訪れる人の心に深く残る「物語」が眠っています。
それは、幕末の戊辰戦争、会津藩の最後を守ろうとした若き少年たち――白虎隊の物語です。
今回は、白虎隊士たちが最期の時を迎えた場所、そして彼らが今なお静かに眠る「十九士の墓所」を中心にご紹介します。
前回の記事で巡ったさざえ堂の神秘的な構造や、洞穴の冷たい空気に心を打たれたあと、この墓所を訪れることで、この地に流れる祈りのような空気がより深く感じられるはずです。
さざえ堂の隣、静かに佇む御朱印所から旅は始まる
前回の記事では、さざえ堂まで紹介しました。

さざえ堂のすぐ脇にある木造の建物。
そこには「御朱印授与所」の文字が掲げられ、地元の方が静かに対応してくださいます。
派手な飾りもなく、歴史に寄り添うように落ち着いた佇まい。
ここでは白虎隊に関する御朱印やお守り、資料類も手に入り、この地を訪れた証として、そっと思い出を持ち帰ることができます。
参拝を済ませ、心を落ち着けたら、いよいよ奥へと足を進めます。
十九士の墓所へ。自然に囲まれた、祈りの空間
御朱印所を抜けてすぐ、木々に包まれた一角に差し掛かると、どこか空気が変わるのを感じました。
そこが、白虎隊十九士の墓所。
白い光が差し込む林の中に、十九の墓石が等間隔で静かに並んでいるこの場所には、華美な装飾や観光的な演出は一切ありません。
あるのは、手を合わせる人々の姿と、折られた千羽鶴、小さな献花――そして、どこまでも深く静かな空気です。
それぞれの墓碑には、隊士の名前や年齢、家紋が刻まれており、彼らが確かにこの地に生きていたことを物語ります。
16歳、17歳という年齢。
家を守り、国を思い、主君に殉じた彼らの心の内を思うと、言葉にならない想いが胸にこみ上げてきます。
白虎隊とは?少年たちがこの地に至るまでの背景
ここで少し、白虎隊の背景を振り返ってみましょう。
白虎隊とは、戊辰戦争の中で会津藩が編成した、16〜17歳の少年兵たちの部隊です。
当時の会津藩では、年齢ごとに兵を編成しており、最年少の白虎隊は「予備兵」のような位置づけでした。
しかし1868年、会津戦争が激化し、藩の防衛は困難を極める中、白虎隊も実戦に参加。
彼らは戸ノ口原の戦いに敗れ、この飯盛山まで撤退。
そこから城の方角を見たとき――煙に包まれた鶴ヶ城を、落城したと誤認してしまったのです。
そして、主君に殉じる覚悟を持った十九名が、この山の中腹で自刃。
そのうち一人は一命をとりとめ、後にその事実が語り継がれることとなりました。
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自刃の地へ。彼らが見た最後の風景
十九士の墓所からさらに奥へと足を進めると、やがて現れるのが白虎隊自刃の地。
訪れた日は木漏れ日が差し込み、草のにおいと風の音が心を包む、まるで時間が止まったかのような空間でした。
ここに立つと、彼らが座り込み、互いに声をかけながら覚悟を決めた情景が目に浮かびます。
刀を抜き、仲間と共に命を絶つ――言葉にすれば一瞬の出来事ですが、そこに至るまでの葛藤や恐怖、そして覚悟を思うと、胸が張り裂けそうになります。
彼らは、何を思って空を見上げ、最後に何を願ったのでしょうか。
その思いは、今もこの地に静かに息づいているようでした。
◆183段の石段から、現在(いま)を見る
墓所から下るとき、ふと振り返って見ると、まっすぐに続く183段の石段が眼下に広がります。
石段の先には、今を生きる私たちの暮らす街。
白虎隊の少年たちが見た会津の風景と、どこか重なって見えるその景色に、時を越えて何かがつながっているような感覚を覚えました。
観光地であり、記憶の場所であるということ
白虎隊の墓所には、日によって多くの観光客や修学旅行生が訪れます。
にぎやかな声も聞こえますが、不思議と墓前では皆が自然と静かになり、手を合わせ、深く一礼して立ち去る姿が印象的でした。
飯盛山は、確かに観光地として整備された場所ですが、それ以上に、人々が記憶と向き合い、学び、祈ることができる“心の場所”です。
訪れる者に何を残してくれるのか
白虎隊十九士の墓所を訪れたことで、私はただ「歴史を知る」以上の体験をしました。
それは、命の重みを感じること。
時代が違っても、人の想いはつながっていること。
そして、今の平和がどれほど多くの犠牲と決意の上に成り立っているかを知ること。
それはどんなパンフレットにも、ガイドブックにも書かれていない、現地に立ったからこそ得られる“体感”です。
📍旅の情報メモ
- 【場所】福島県会津若松市 一箕町八幡 飯盛山内
- 【アクセス】会津若松駅からバスで約10分
- 【備考】
– 石段は183段。滑りやすいため歩きやすい靴で。
– 墓所周辺は夏でも比較的涼しく、木陰が多いです。
– 御朱印所では白虎隊に関連するグッズや資料もあり。